あたしはその綺麗で、どこか懐かしそうな笑みに少しのあいだ思考を奪われて。




藤岡くんの姿が扉のむこうに消えたあと、なんだか恥ずかしくなってあわてて肩にかかった学ランを頭からかぶった。




「反則……」




本当に、藤岡くんはずるい。

そんなの見せられたら、もうあたし




本当に、本当に、藤岡くんしか見えなくなるよ?






沸騰したみたいにグラグラな頭のなかで、藤岡くんの低めの声で呼ばれた自分の名前が反芻して、

それにつられて




「……い、つき」




なんて小さくつぶやいてみたりしたけど、かなりの恥ずかしさに自爆したので、

もうなにも考えないようにしようと、まぶたを下ろした。




藤岡くんの学ランは、藤岡くんのにおいがして。




あたしはその優しい香りにつつまれながら、少しのあいだ眠りについた。






――藤岡くんに惚れ直してしまった、そんな日。