曲がった事が大嫌いな性格で「ごまかすな!」が口癖。にもかかわらず、思いっきりヅラ。人に厳しく自分に甘いタイプである。
17歳になる一人息子(正吾)は完全にグレていて、もはや何も言うことを聞かない。
高校に入る前の正吾は素直で真面目な好青年であった。しかし、ある事件をきっかけに一気に悪の道へと進んでいく事となる。
高1の夏休みの事である。塾での勉強を終えた正吾は帰宅途中の北千住駅で、とんでもない光景を目の当たりにする。あろうことか、父親が駅員に追いかけられていたのである。いい年をしたおっさんが、鬼のような形相で必死に(猛ダッシュで)逃げているその様は、あまりにも滑稽、且つ鮮烈で、16歳の少年にはちょいと刺激が強すぎた。駅員に追いかけられるなど普通では考えられない。つまりはキセル。ないし痴漢。どちらかの容疑である。
「あの(いつも厳しい)父さんが…あの(一本筋の通った江戸っ子の)父さんが…そんなはずがない。何かの間違いだ。」
彼は何度も自分にそう言い聞かせた。しかし次の瞬間、もうどうでもよくなった。しっかりと固定されていたはずの親父のヅラが(スピードに耐えきれず)宙に舞い上がったのである。
「焼け野原じゃないか…。」
無惨な親父の無惨な頭を初めて目にした彼は思わずそうつぶやいた。そう。高砂進は家族にまでヅラである事実を隠していたのである。
その後、進は一目散に出口へと進む。そして、改札を強引に突破すると、そのまま人混みの中に消えていった。
正吾は残された(加齢臭漂うギトギトの)ヅラを手に取り「ごまかすなーーー!」と大声で叫びながら、モト冬樹演じるヅラ刑事よろしく、周囲の人間に投げつけた。非行の始まりである。諸行は無常である。