「チス。小野寺樹です。みんなからは“ブタゴリラ”ないし、“タツキデラックス”って呼ばれてます。こう見えて僕、動物園の飼育員やってます。毎日毎日、猫の手も借りたいぐらい忙しいのに、雀の涙ほどの給料しか貰えません。だからこんな仕事早くやめたいのですが、そういう素振りを見せるとややこしい事になるんで、猫をかぶって大人しくしてます。だいたいあの馬面(園長)に給料の事を兎や角言っても無駄なんです。馬の耳に念仏なんです。ちょうど一年ぐらい前ですかね。直談判しに行った事があって、その時は僕、わざと汚い格好して行ったんです。トラに引っかかれてビリビリに破けた作業着に、ゾウの糞とかバクの尿とかを思いっきり擦り付けて。そうすれば『君頑張ってるなぁ。』なんつって、ひょっとしたら給料上げてくれるかも。と思ったからです。ところがどっこい、完全に捕らぬ狸の皮算用でした。入るなり『シャワー浴びてから来いよ。』と軽くいなされ、出るなりファブリーズされました。糞尿は蛇足でした…。でもあのヒヒおやじ(園長)、女にだけは優しいんですよ。同期の中村っていうメス豚がいるんですけど、そいつがまたふざけた奴でね。メガネかけてるんですよ。目悪くないのに。(メガネザルみたいに。) 僕なんか目悪いのにメガネかけてないんですよ。(モグラみたいに。) これどう思います?ふざけた話ですよ。だって、『夫が倒れまして…今の給料では到底やっていけません…。』とか『介護疲れがひどくて…週休2日では到底やっていけません…。』とか言って、給料を1.5倍に、週休を3日にしてもらったりするんですよ。涙でメガネ曇らせたりするんですよ。これどう思います?園長もとんだ阿呆鳥ですよね。そんな猿芝居を鵜呑みにしちゃうなんて。確かに倒れはしましたよ。乗馬の練習中に落馬して。でもポニーですから。肘のあたりを軽く擦りむいただけですから。夫ピンピンしてますよ。


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