エコな奴。

「高速道路の利用料が土日祝日だけ1000円になったでしょ?私は新幹線を1000円にすればいいのにって思うわけ。そのほうがずっといいわ。地球のためにも皆のためにもね。」

タエコは文明社会の外側で生きようとする。
車なんか乗らない。気持ちが乗らない。
ストーブもクーラーも使わない。冬は厚着、夏は下着が基本だ。

「世界中が停電した時、明るく振る舞えるのは私だけかしら?」

タエコは東京電力に頼らない。
電気はチャリンコの動力で自ら発電している。
この発電方法は基本スタイルが立ち漕ぎであるため、2時間ドラマを最後まで見ることはできない。どう頑張っても15分が限度だ。犯人とおぼしき人物が突然死んだりすると次の展開が気になり、2時間頑張っちゃおうかという気にもなるが、やはり体は正直だ。もって17分だ。

「『もったいない』って言葉を流行らせたのはアフリカの人かもしれないけど、『もったいない』が口癖の私は前橋の人よ。」

タエコは街中のゴミを拾い集めて、家まで建てた。強い北風が吹いても壊れないぐらいの頑丈な作りだ。「ゴミ屋敷」と揶揄されたり、「クソババア」と落書きされたり、近隣の住民からの風当たりも相当強いが、当の本人は「渡辺篤史をも唸らせるほどの完璧な出来映え」とご満悦だ。
タエコの家には余計な物が一つもない。
カーペットがない。タオルケットがない。ペットがいない。
ついでに言うと、トイレットもない。
タエコは外でする。
それを肥やしにする。
そこにカブトムシがやって来る。
タエコはその幼虫を売って生計を立てている。
「メスしか来ないの。どういうわけか来るのはメスばっかりなの。言いたいこと分かるでしょ?がっかりなのよ。」
なぜがっかりなのか。メスは金にならないからか。メスは持ちづらいからか。いや違う。メスは子どもの期待を裏切るからだ。
子どもたちは羽化したカブトムシが土の中から這い出てくるあの瞬間を何よりも楽しみにしている。誰もがオスの登場を期待している。そんな時に角のないカブトムシが出てきてみろ。彼らはたちまち飼う気をなくし、同時に夏休みの自由研究の題材までなくし、途方に暮れてしまう。


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