彼はあんぐりと口を開けたまま、大輔と柳君の顔を交互に見た。大輔は膨れっ面でこちらを見ていた。柳君は鼻を膨らませて必死に笑いをこらえていた。
その時、彼は悟った。
「確信犯だ…。」
しかし、何の恨みがあってそんな事をするのか。彼にはその理由がさっぱり分からなかった。
結局、今大会における彼の成績は『坊主』に終わった。一枚も取れなかったのは、クラスで彼一人だけだった。二枚も取ったのは柳君だけだった。何だか無性に腹が立った。抑えようのない怒りがこみ上げてきた。
「どうしてくれよう……」
彼は柳君を落とし穴に落とす計画を企てた。そして、その作戦を友人、知人に大々的に発表した。しかし、皆口々に「めんどくさい。誰も得しない。時間の無駄。やだ。」などと言って、誰も協力してくれる者はいなかった。
彼は仕方なく諦めた。こみ上げる怒りを無理矢理胸にしまい込んで、忘れることにした。
ところがその日の放課後…。
大きな落とし穴が待っていた。
教室から下駄箱へ向かう途中、彼の前を歩いていたはずの柳君が突然いなくなった。
よく見ると築百年の老朽化した(廊下の)床が抜け落ちていた。そう。柳君は彼の意思とは無関係に落っこちたのである。
その時、彼は初めて『結果オーライ』という言葉を知った。
笑いが止まらなかった。最高にいい気分だった。彼は抑えようのない喜びを体全体で表現した。クルクル回ったり、ポンポン飛び跳ねたり、クルンポワン舞い踊ったりした。
ところがその後…。
思わぬ落とし穴が待っていた。
下駄箱で靴を履き替えている途中、
「ギャー!」
突然彼が悲鳴を上げた。
靴の中を見てみるとアブが死んでいた。そう。彼はアブに刺されたのである。蝶のように舞い、蜂のようなものに刺されたのである。
「これが柳君の仕業だとしたら……」
そう思うとまたムカムカしてきた。彼は足を引きずりながら柳君のもとに戻り、問いただした。
「俺の靴にアブ仕込んだろ!?」
柳君は(穴の中で埃まみれになりながら)鼻を大きく膨らませた。
その時、彼は悟った。
「間違いない…。俺は柳君に嫌われている。理由はよく分からないが、確実に嫌われている。そうでなければ柳君がこんな事をする訳がない…。」