船井は悩んでいた。カズに年賀状を出そうか出すまいか。ここ1週間ずっと悩んでいた。

カズとは、かれこれ16年の付き合いになる。Jリーグが開幕して以来ずっと、笛を吹かせてもらっている。誰よりも近くでカズのプレーを見てきたし、誰よりもカズをひいき目に見てきた。カズがデカビタのCMに出ていた事もちゃんと覚えてるし、カズが変なパーマをかけていた事も勿論覚えてる。カズモデルのスパイク(カズデポルテ)もボロボロになるまで履き続けた。Jリーグチップスもカズのカードが出るまで買い続けた。武田がダブったり、柱谷が6枚も溜まったりしたが、めげずにカズが出るまで買い続けた。

船井にとってカズは、それぐらい身近な存在なのである。
ただ、プライベートで笛を吹いた事は一度もない。あくまでも仕事上(ピッチ上)の付き合いに過ぎない。ひとたびフィールドを出てしまえば、カズと船井とを繋ぐものは何もない。
だからこそ彼は悩んでいた。年賀状を出そうか出すまいか。ここ1週間ずっと悩んでいた。カズとの微妙な距離感に悩まされていた。

そして、8日目の今日、ようやく答えを出した。遅れ馳せながら、年賀状を出した。それも試合中、カズのファールに乗じて、イエローカード感覚で出した。

「明けましておめでとうございます。明らかにオフサイドだったので出しました。今年もよろしくお願いします。」

この方法しかなかった。カズの住所など知る由もないから。この方法しか思いつかなかった。ヤスの住所すら知らないから。

PS
来年はゴンにも出そうと思っている。勿論、この方法で。