まぁるい物を探し続けて、早20年。
思えばこの20年の間に、世界は大きく変わった。
ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が崩壊し、東西の冷戦構造が崩壊すると、やがて、グローバリズムという怪物が世界を飲み込んでいった。
結果、ビルに飛行機が突っ込み、町中に砲弾が降り注ぎ、大統領には靴が贈られた。
変わった。何もかも変わってしまった。
エステー化学がエステーに。保阪尚希が坊さんに。田中義剛がひっぱりだこに。愛ちゃんが大人に。
その点、勅使河原は何一つ変わっちゃいない。20年間、ただひたすらに、まぁるい物を探し続けてきた。それも、朝から晩までぶっ通しでだ。月から日まで休日返上でだ。北は北海道から南は沖縄までサービスエリアとか寄らずにだ。この辺り、もっと評価されて然るべきだ。
どうして世間は彼を認めようとしないのか。どうして爪弾きしようとするのか。おそらくそれは、まぁるい物が内包する気味の悪さと、丸山が内包する頭の悪さに起因しているのだろう。
丸山円。言うまでもなく、勅使河原の一番弟子である。当初、勅使河原は弟子をとるつもりなど毛頭なかったが、丸山の登場により事情が変わった。名前が気に入ったのである。しかしこの男、まるで使えない。まぁるい物の何たるかが全く分かっていないのだ。「師匠!とうとう見つけました!」そう言って持ってくる物はいつも、見当はずれのガラクタばかりだ。勅使河原が怒るのも無理はない。
「バカ野郎!それはティッシュの丸まったやつだ!ティッシュの丸まった気まずいやつだ!」
「それは牛の鼻に付けとくやつだ!」
「それは浅間山荘事件で使われたやつだ!浅間山荘事件で大活躍したやつだ!」
「それは便所虫だ。せめてダンゴムシを持ってこい!」
「それはマルイだ。○|○|でマルイだ!」
「それは何だ?何かのおまけか?グリコか何かの。何かのニセモンか?中国か何かの。何かの幼虫か?カナブンか何かの。何かの卵か?弁護士か何かの。何かの賜物か?努力か何かの。何かの……」


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