この男は心の内を「五・七・五」で表現する嫌いがある。それが故に、全く会話が成り立たない。
この男は芭蕉気取りなのか何なのか、常に棒状の物を携帯している。それが故に、しょっちゅう電車内に忘れてくる。座席の上っ側に忘れてくる。
話にならない。
以下は、先日彼が参加したお見合いパーティーにおける、2ショットタイムの模様である。
てんで話にならない。

女「好きな食べ物ですか?そうですねぇ…天ぷらですかね。一ノ瀬さんは何ですか?」

一ノ瀬(以下、一)「俺の塩 ペヤングUFO 俺の塩」

女「カップ焼きそばですか?と言うより…」

一「お察しの通りです。」

女「……。一ノ瀬さんて、おいくつなんですか?」

一「そうさなぁ おそらくお前の 3個下」

女「27ですか?」

一「37です。」

女「……。ご出身は?」

一「言うなれば 青森県の 1個下」

女「秋田ですか!?実は私も」

一「岩手です。」

女「……。ご職業は?」

一「ゴムヘビを せっせと袋に 詰めている」

女「ビックリおもちゃの製造業ですか?」

一「出来合いのゴムヘビです。」

女「内職ですか…」

一「天職です!」


二人目の女(以下、二)「好きな乾き物ですか!?そうですねぇ…カワハギですかね。一ノ瀬さんは?」

一「乾き物 俺基本的に 好きじゃない」

二「は?何それ意味わかんない」

一「これ?棒です。木の棒です!」


一ノ瀬俊彦…。このままでは結婚はおろか、友達になる事さえできないだろう…。
そんな彼を尻目に、自宅アパートの隣では、新婚ほやほやの若夫婦がキャッキャはしゃいでいる。
部屋の真ん中に飾られた小さなクリスマスツリーが、若夫婦の幸福感を物語っており、部屋の片隅に残された大きな扇風機が、一ノ瀬の虚無感を煽っている。

「閑さや 胸にしみ入る あえぎ声」

今宵もすぐには寝付けまい。