すぐ泣く。
朝の通勤電車の押し合いへし合いは、彼の涙腺を緩ますには十分すぎる。夜の繁華街のネオンもまた、涙なしには語れない過去を呼び起こし、いつだって滲んで見える。
春は曙。力士最強説を唱えていた幸信だけに、金子賢との対戦が囁かれた時には、さすがに胸を痛めた。(涙)
夏川純。20歳の頃はさらなり。成人式もなお。3年はでかい。名の通り純な部分に惹かれ、テレビで活躍する前からのファンであった彼にとって、あの行為はどうしても許せなかった。(涙)
秋葉原。メイド喫茶でのあれこれは至福としか言いようがない。帰りたくない。(涙)
冬は努君。幼なじみの努君が節分の日に必ずやって来る。少し赤ら顔でやって来る。いまだに鬼のように怖い。(涙)
お分かりの通り、田町幸信は年がら年中、四六時中泣いている。幼い頃からそうだった。『建もの探訪』のオープニング曲を聴けば、土曜日が来た嬉しさから涙を流し、『サザエさん』のエンディング曲を聴けば、日曜日が去る悲しさから涙がちょちょぎれた。おかげで目の下には、ちょうど鼻の下にあるような溝みたいなのができている。雨樋的な感じで、うまいこと流れるようになっている。しかしそのせいで、泣いていない時でも泣いているように見られてしまう。これまた悲しい。泣けてくる。だからどんどん溝が深くなる。みんなとの溝も深くなる。涙と溝は比例するのだ。彼の場合は。

PS
彼の実家が溝の口駅の目と鼻の先にあるのは、偶然とはいえ、できすぎた話である…。