「テニスしようぜ」 大きく伸びをした彼は、視線だけをあたしに向けて口角を上げた。 「……バカ。出来るわけないじゃん」 ため息をついて右手を持ち上げると、彼は「そうだった」と言って舌を出した。 「んじゃ、ラケット貸して!俺のガット緩くなってんだよっ」 「は?ちょっと…!」 あたしの答えを待たずに肩にかけていたラケットを取り上げた裕斗は、 カバーだけはあたしに投げると、ポケットから取り出したボールを壁に向かって打ち始めた。