「ご飯の前に着替えていらっしゃい」 そう微笑む母の言葉に頷いて、リビングをあとにする。 階段を上って、レッスン室や父の書斎がある2階を通り過ぎようとした、その時。 3つあるうちの1つのレッスン室に明かりがついているのが目に入った。 防音になっているから音は聞こえないが、美沙は楽器なんて触らない。 ――父が、帰ってきているらしい。 「・・・はぁ」 まるで条件反射のように、ため息が出た。