「郁斗、起きて。
 もうすぐ晩御飯だよ。」




雅先輩が、郁斗先輩の傍にしゃがみ込んで、耳元に囁きかける。
その距離は近すぎやしないだろうか、……まぁ、別に、俺は良いんだけど。
それにしても、俺が気絶させてから、……結構経ってるよな?
そんなに痛かったのか……?
顔で決めつけるのは良くないが、はっきり言って、かなりの凶悪面をしている。
……にもかかわらず、起きる気配が一向にないのは、俺の気のせいって事にしておこう。



























「はぁ、……出来れば、これは、あんまりやりたくなかったんだけど。」



仕方ないよね? と言いたげに、こちらを見やる雅先輩。
そんな子犬みたいな表情をしながら、言わないでください。
雅先輩に、これから何か酷い事をされるであろう、哀れな郁斗先輩に、
ほんの気持ちだけ、同情の眼差しを向けてみる。










「郁斗、……本当ゴメンね、……うん、悪気はないんだよね。」


そう言って、どこからともなく取り出した針を、郁斗先輩の右頬に突き刺した。
その表情が、明らかに楽しげなのは、えーと、……俺の気のせいですか?
……いや、それ以前に、何か、顔面が痙攣してるような気がするんですけど……?
彼が呻いていたのは、……うん、軽くスルーしておこう。
その方が、俺の身のため、だからな。