「そんなわけで、俺は売られた。
 人を売るっていう行為が、その頃の俺には分からなかった。
 けど、……行き着いた先で、それが、俺に、現実を思い知らせてくれた。」





自嘲気味に話してやる。
もう、凪は、心ここに在らず、みたいな顔をしているが、
そんな事は、この際、どうでも良い。
誰も聞いていなくても良い、久しぶりに昔を思い返した、
独白だと思えば良いんだ。
俺は、瞼を閉じて、昔話を続けた。



























「あ、ちなみに、売られたのは、生まれてすぐじゃなくて、
 3歳ぐらいの時なんだけどな。
 向かった所は、家柄でいうと、中の上くらいの所、だったような気がする。
 だが、その後の3年間の事が、不思議な事に、記憶から抹消されているんだ。
 思い出そうとしても、思い出せない。
 いや、寧ろ、思い出しちゃいけないような気もするんだが、
 それは、ともかくとして、だな……。」




本当に、まるで最初からなかったかのように、
でも、確かにあった時間が、跡形もなく消え去っているんだ。
だが、微かになら覚えているんだ。
否、忘れたくても、忘れられなかったんだろう。
俺の、……12年前くらいの記憶。