「ふうん、……何か、疲れているみたいだね。
 俺が相手してあげようか?」



俺の表情を窺いつつ、凪は、ゆっくりと、俺の方に歩み寄り、
手を伸ばし、俺の頬にそっと触れた。
そのまま、輪郭をなぞるように、それでいて、
酷く優しげな手つきで、撫でていく。

























狡猾な悪魔は、人間の振りをして、獲物に近付くらしい。
俺は、そんな神話などは信じていないし、
目の前に居るコイツが、そんな大層な悪魔には見えなかった。


































「あいにく、今の俺は、機嫌が悪い。
 これ以上キレさせたら、何し出すか分かんねえぞ?」


凪の手は払わずに、俺は、間近に迫っている凪の顔を真っ直ぐに見つめながら、
挑発的な口調で語りかける。
口元は、自分でやっているから分かるが、緩く口角が上がっていた。
たぶん、俺の今の視線は、キレる寸前なのだろう。