「え?」

後ろを振り向くと、そこには汗びっしょりの入野先輩がいた。
あれ、眼鏡をつけていない。

「本当に来てくれたんだ!」

「ていうか先輩が来てって言ったんじゃないっすか」

「まーなっ」

先輩は凄くかっこいい笑顔で言った、あ、タオル。

「先輩これ」

「おぉっ!さんきゅー!(やった、タオルゲット)」

おー冷てー、なんて言いながら先輩は顔を拭いた。

「先輩、眼鏡は?」

「んー、テニスする時はいつもコンタクト。つか今日マジであちー」

テニスラケット大きいなぁ・・・
私、子供の時にしかテニスってやった事ないなぁ。

きっと重いんだろうなー。

「(蜜の視線に気付いた)」

「先輩、それ重くないんですか?」

私は先輩が持っている深緑のラケットに指を指した。
これって確かSPEEDYが開発中の新しいラケットだ、凄いなぁ先輩って。

「これ?持ってみる?」

先輩は私にラケットを渡した。

「・・・あ、意外と軽い!」

「これ、軽くて強いんだ」

「へー、これってSPEEDYのやつですよね」

「良く知ってんな!他の奴らも知らねーのに」

そういうと先輩はまた笑った。

「あ、そういやもうすぐ終わるんだけど一緒に帰らない?」

「え?」

ま、まさか帰り誘われるなんて。
なんだか隣から痛い視線『達』を感じる。

応援団の目が痛い。

「あ、もしかして黒名さんと帰る約束してた?」

「い、いえ!してません、大丈夫ですっ」

一体なにが大丈夫なんだろう。
途端に先輩は優しく私に微笑んだ。





「じゃあ帰ろっ」





「・・・はい」

私は先輩の笑顔に断れきれなくて、『はい』しか言えなかった。
その言葉が胸を苦しめて、居たたまれない気持ちにさせた。