「Sランク執事の俺が、一度目ぇつけたんだぜ?」
更に耳元に近づく彼の唇。
ぞわっとする。
「逃げられるわけ…ねーだろ?桜井結衣サン」
「や…」
もう無理!
あたしは東堂蓮の手を振り払って、一歩後ろへ離れた。
「いい加減にして!」
あたしは少し彼を睨んだ。
でも…
彼は爽やかな笑顔を作って、口を開いた。
「ご契約、ありがとうございます。結衣様」
…え?
「いつあたしが契約したってい…」
あ…!?
――嘘!!
彼のネクタイに目が釘付けになる。
さっきまで茶色だったはずのネクタイが…
「yui」という銀色の刺繍が入った黒のネクタイになっていた。
「いつの間に…」
恐る恐る、自分のネクタイを見る。
「ren」の刺繍入りの、茶色ネクタイ。
やられた…
その途端、お嬢様方の恐ろしいほどの悲鳴。
目の前には満足そうに微笑む東堂蓮。
…最悪。
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