「じゃ、今日は千広よろしくね」

「…いいのか?」

「何がよ」

「長月だよ」

長月はキョトンとした顔だ。折角、気を遣って言ってやったのに。

「まぁいいや。今度な」

俺は適当に帰りの言葉を言うと、高円寺と歩き出した。




暫くするとこの間の十字路に来た。

「高円寺。気をつけろよ」

少し笑って言った。この頃、俺はよく笑うようになった。

「うん!いつも三枝君には助けてもらってばかりだからね」

「そうでもないぞ?」

「そうだよっ」

「そうなんだ」

高円寺の屈拓のない笑顔は正直、男のハートをガッチリ掴む程に可愛い。いや…確実にだ。

「エヘヘっ」

「何だ?変な笑い方して」

「何でもなーい!」

帰り道は久しぶりに楽しかった。

「じゃ、ありがとう!またね!」

「あぁ」

高円寺が豪邸のドアに消えるまで見送ってから、俺は商店街に走った。






夏葉は本屋の店頭にある雑誌を手に取って見ていた。

「また立ち読みしてんのかよ」

「い、いいでしょっ」

振り向くと雑誌を置いて長月はスタスタと歩き出した。

「おい、待てって」

「……」

「送ってくよ」

「千広は?」

「長月っていつも高円寺だな。俺がほっとくように見える?」

「見える」