「…あの、ごめんね?」

高円寺は申し訳なさそうに俯きがちに言った。

「いいんだよ。行こう」

「…うん」




夕方の光りは町並みをオレンジに染め上げた。歩いている間に俺達は何も話さないままだった。

高円寺はずっと下を見たまま俺の左斜め下を歩く。

俺は前だけを見ていた。見て、歩いているだけ。

思い出していた。

あの時、田中が言った言葉を…




『三枝君は人に好意とか持ったことないの?』



何だソレ……?





好きになるって事だよな………?



何を?…誰を?人を?…物を?



意味…わかんねぇ…。


好きという感情ならある。食べ物、友達、テレビ番組…。




田中が言ったのは……人…の事。




人が好き……どんな感情なんだろう…友達として?

でも、山地が高円寺に持つ好意は『好き』だろう。

その感情は異性への好きだ。

友達としてじゃない…





俺は…そんな感情知らない。



抱いた事もない。




誰か…教えてくれよ…




十字路に差し掛かった。左には高円寺がいる。斜め後ろをついてくる。

さらに左には道路があり、ガードレールの代わりに白線が引いてある。

割と狭いその道路は車の通行は大して多い方では無い。

だが、大型車が通る場合は人一人分程しかスペースは開かない。

それくらい狭い通路に俺と高円寺はやや幅をとって歩いていた。

十字路に差し掛かる直前、目の前を横切る大通りからトラックが左折してきた。

明らかに狭いこの道では一人分のスペースがやっとだった。