「なぁ。高円寺よくアイツと付き合えんな」

「えっ?そうかな…。夏葉は本当は良い人よ?」

「…そうなのか?信じらんねーな」

「でも、二人とも同じクラスだったんでしょ?いいなー」

「そうか?」

「……うん」
(私も最初から三枝君と同じクラスだったら良かったのに)

「ていうかさ。アイツって喋んなきゃ可愛いのにな。もったいねーよな」

香は笑いながら言った。本人にはまったく悪気はない。

「……っ!?…そ、そうだねっ…」
(取り乱しちゃダメっ!)

千広は香の突然の言葉にどぎまぎしてしまった。必死に平然を装おうとする。

「……?どうした?」

「ううん!何でもない!」

結局、ゴミを捨てた後は無言のまま教室まで戻った。

「おそーい!!もう皆は先帰らせちゃったからね」

長月はしかめっ面のまま口を尖んがらせた。

「お前、それがゴミ捨てから帰還してきた者にかける言葉かよ」

「千広が可哀相だわ」

「いや、意味わかんねー」

「まぁ、いいわ。帰ってよしっ」

どっかの上司かよ?と突っ込んだが、虚しいだけだった。

「高円寺。サンキューな」

「う、うん!」

そう言って香は教室から足早に出ていった。

「……」

千広は香が去った後もドアの方を暫く眺めていた。

顔を赤らめて、ずっと惚ける千広を見ていて…この頃の千広を見ていて…

私はなんとなくだけど気付いていた…

千広は…三枝の事……

教室には私と千広だけ。でも、そこには窓から聞える雨の音と自分の胸の鼓動しか聞こえなかった。

灰色の空から降る雨は私の心を静かに湿らせていった。