…ワガママだね。

璃雨は。

「…紀琉。」

私はゆっくり紀琉の肩を押して、紀琉の上半身を立たす。
紀琉は静かに顔を上げた。
切なげな表情に胸がしめつけられる。

私はゆっくり紀琉の頬に触れた。

「…璃雨は、死ぬまでの間ずっと紀琉を想ってるよ。紀琉の為に生きていく。…約束する。」

それだけが、唯一紀琉に約束できることだった。

約束と契約はえらい違いだね。

約束はあなたと璃雨の心を繋ぐ鎖だもの。

紀琉は寂し気に微笑んだ。
「……はい。」

そう言って、徐々に紀琉の顔が近づいてくる。

何が起こるかは分かっていた。

璃雨は静かに目を閉じた。
音もなく、触れ合う唇。

紀琉の腕が璃雨の肩に回る。

私達は今日、長い長いキスをした。

とても優しく、とても切なく、とても痛いキスをした。

…紀琉。

今でも思うの。

私がもっと素直になっていたら。

私があなたに対して浮かび上がった疑問を、あなたに聞いていたら。

あんな事にはならなかったんじゃないかって。

忘れないでと言った、あなたが浮かぶ。

時間を流れるまま感じていた私は、すっかり忘れていた。

時間は戻らないという事を。

唇がゆっくり離れる。

契約1日目の出来事だった。