そんな事が、何だか素直に嬉しい。

嬉しいなんて感情、もう味わえないと思ってたけど…。
フフっと笑い、くるっと反転し私は真っ直ぐアパートへ向かった。

"紀琉"

私が命をかけて、愛した人。
死ぬ意味なんて、考える暇がないほど、私を夢中にした人。

そして、最後の最後に私を裏切った…嘘つきな人。

アパートの玄関を開ける。
"紀琉"

私は、あなたの事を何も知らなかったの。

「…ただいま。」

雲が月を隠した。