璃雨は、うなされていた。決して今まで、思い出した事はなかった汚い記憶にうなされていた。

6年前

「ただいまー。」
赤いランドセルを持って、誰もいない家に向かって意味のない言葉をかける。

誰もいないというのは、璃雨にとっては当たり前のことだった。

この頃の両親は、共働きで家にはいなかった。

母は帰ってくるのが早いので、それまで私は宿題をしながら帰りを待つ…というのが毎日だった。

この頃は、父の帰りがどんどん遅くなって顔を合わすことも少なくなっていた時期だ。

それでも、璃雨はまだ幼く母の充分すぎる位の優しさに、その危機に気付かないでいた。

父と母は、中学で出会い、高校一年の時に過ちを犯してしまい私をみごもった。
産むのはもちろん反対されたし、ひどい仕打ちも受けたと聞いた。

それでも、璃雨に会いたいという気持ちが二人の支えになってくれたらしい。

その話を聞く度に、璃雨は満面の笑みで嬉しい気持ちにかられたものだ。