契約の恋愛

「今週の土曜、空いてる?」
再び紀琉に尋ねてみるが、返事はない。

勝手に切ってやろうかとちょっと考えたと同時に、受話器越しからガラスが割れるような音がした。

女の人があげるヒステリックな悲鳴より、ゾッとする音に聞こえた。

何かが、壊れた音。

「…紀琉…?」

おそるおそる声を出す。

受話器越しからは、静かに紀琉が動く音が微かに聞こえた。

《…すいません。コップを落としてしまいました。》
…コップ。
紀琉の声や言葉に力はなく、無気力な状態に聞こえた。

いつもの感情がこもっていない声とは違う、完全に何もなくなった声。

璃雨は、違う意味で肩をビクつかした。

散らばっているであろうガラスの破片が、頭をちらつかせる。

「…大丈夫?」

探るように尋ねると、破片を集めるような音が聞こえてくる。

《…大丈夫です。》