せやけど体育の授業のときだけは、隣りのクラスとの合同授業で、イヤでも彼女と顔を合わなアカンやった。
最初んうちは何度か、ウチに話かけようとしてはった一葉やけど、アノ一件以来、自分の中では彼女と完全に絶交状態にあったウチは、ひたすら彼女を無視し続けとった。
せやから最近ではもう彼女のほうも、ウチには話しかけへんようになっとった。
今になって思えば、あんときウチに謝ろうとしてはったんかもしれへんけど……。
ある日、バスケットボールの授業が終わったあと、女の体育の先生に呼びつけられてはる一葉を見た。
別に盗み聞きするつもりはなかってんけど、二人が話してはるのが聞こえてきたんや。
「各務さんも3年生なんだから、そろそろブラジャーをつけたほうがいいんじゃない? 服の上からでも胸が揺れてるのが分かるし、男子に見られて恥ずかしくないの?」
「ボク、FtMやから、そんなんいらんとです」
“FtM”とはカラダは女性そのものやのに、精神がそのことを受け入れようとせんと、自分を男やと思ってまう“性同一性障害”のことで、一時期マスコミなんかでも大きく扱われたことがある。


