みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~


あんときの先生の言葉は、今もウチの耳にこびりついて離れへんやったさかい、あんとき先生がそない言うたのは間違いあらへん。


そっくり真似し描いたはずの2枚の同じ絵のうち、本来、絵が上手なはずのウチの絵やのうて、一葉の絵のほうが選ばれてしもうたんは、単に一葉が色弱やなかったからやと、ウチは自分勝手な解釈で結論づけとった。

1枚1枚まったく別の絵で勝負をするなら、ウチは誰にも負けへん自信がある。

せやけど、誰かがウチとまったく同じ絵を描いたとしたら、色弱のウチより、他のヒトのほうが色使いがええに決まっとる。

同じ絵を描いたはずやのに、ウチの絵が選ばれんかったんは、生まれついてのどうしようもない“色弱のせい”やったんや。


ウチがこないなふうに考えたんは、昔、まだ高校生やった姉の有紀が、学校で教わった“メンデルの法則”の話をしてくれはったのを覚えとったからや。

メンデルの法則ってゆうんは、遺伝情報の中にも優性と劣性があって……つまり言い換えるなら子供に遺伝しやすい体質と、そうやない体質があって、それらはあらかじめ決められた法則によって規則正しい確立で、子供に遺伝するちゅうことを示した理論や。

せやから、そのメンデルの法則によれば、その確率上の問題で、三姉妹の中で姉と妹は色弱にはならんと、ウチだけが運悪く色弱として生まれてきてもうたちゅうことになる。