釣り人のひとりが竿を勢いよく振ったとき、“釣り針”がウチの頬に引っ掛かってしまうたんや。
釣り針っていうんはフツーの縫い針と違って、一度サカナを引っ掛けたら二度と外れへんように、先っちょの部分に逆向きのツメみたいのが出てるさかい簡単には取れへん。
“魚釣りの釣り針に釣られた女の子”なんて、客観的に見たら笑えるシチュエーションかもしれへんやったけど、とにかくウチは痛とうて痛とうてしゃあなくて、たちまち泣きべそをかいてもうた。
するといつもはスカしてて、あまりマジな部分を見せへん各務くんがブチ切れて、自分の親より年上のおっさんに向かって猛然と抗議して、結局、そのおっさんのクルマに乗せてもろうて、ウチはこの西市民病院で頬の釣り針を外してもらうことになったんや。
「あんとき、そもそも海に行こうって言い出したんはオレやったとやし、オレの監督不注意のせいで、女の子の顔にキズなんか付けて、もしそのキズが一生消えんやったら、よっちゃんに対してどぎゃんしてお詫びをしたらいいんやろ?って……」
そんときの感覚が各務くんの中によみがえったんか、見ているほうがツラくなるような表情で、声も途中で消えそうにかすれとった。
「でも、あんときのキズは今じゃスッカリ跡形もなくなっとるよ♪」


