行ってしまったバスをしばらく見送った後、私は目の前にいるこの男を睨みつけた。


「どういうつもり?」


「なにが?」


「なにが……って!!」

「ほら、乗って!
あ、やっぱちょい待ち。」

そう言って、なぜか着ていた上着を私に渡した。

「………なに?」


「その格好じゃ寒いから着て。」


「いらない。」


「着なきゃ乗せない。」


「あんたねぇ!!」

差し出したままの神田春哉の目は真剣だった。


………はぁ。

ここで言い争っても埒があかないと判断し、


仕方なく!!

彼の上着を着てから
バイクに跨った。
今度は肩を持つことにして。



だが、





「ちゃんと掴まってくださ―い。」


「ちゃんと掴まってる。」


神田春哉の口調が如何にも呆れたような口調だったため、私はムッとして学校での口調に切り替えた。





「それじゃ、発車出来ないってば」



そう言いつつ、
私の手を掴み自分の腰に巻きつけた。

私はなんとか振りほどいて離そうと試みたが力の差が歴然としていてびくともしなかった。


(悔しいっ!)


「離して!」

私は悔しさのあまり声を荒げた。


「いいけど、
ちゃんと掴まってて」


落ち着いた声でそう言ってから手を離された。

触れられていた部分が微かに温かいのはきっと気のせいだろう。