店が『close』になったのは
深夜0時だった。

あの後、川崎さんはすぐメイクを直して、何事もなかったかのようにホールに戻っていった。

私はというと、ずっと更衣室にいた。抱き締められた時の痛みが思ったより長引いたみたいだ。



コンコン―

「綾乃ちゃん?入るね?」

川崎さんだ。

「あ、はい。」

「あ、起き上がらなくていいから。そのまま訊いて?」

「すみません…。」

「さっき、マスターに電話したの。綾乃ちゃんが来てるって。
マスター、一昨日から仕入れに行ってたから。」

「はい。」

「それで、訊きたいのは
矢野君のことなの。」

「え………」

「正月の飲み会の後、
綾乃ちゃん、佐藤君のところから、自分で帰ったでしょ??その後から連絡がとれなくて、男の人が入院してるって言いにきて。いつ入院したのか分からなくて矢野君、自分を責めたのよ。
もしかしたら、あの後事故にでもあったんじゃないのかって。」


………そんな!


「違います!矢野さんは何も悪くないです!!私が………っつ!」


「分かったから、落ち着いて。」

「すみません。」

「もしかしたら、矢野君と何かあったんじゃないかって思ってたんだけど…それも違うの??」


「何かって…?」

「……違うみたいね。
あのね、マスターが矢野君を拾ってきてもいいかって言ってるの。」


「あ、はい。」


「じゃあ、伝えてくるね。」


そして、30分後。
マスターと矢野さんが
勢いよく、更衣室の扉を開けた。