車が走って数十分。
見たことのある景色
を見てしまった。

「佐藤君の家は…
この辺りなんですか??」

「ええ、そうですよ。
ほら、あのアパートです。」

指で示されたアパートは神田の家の少し先にあった。

「綾乃さん、すみませんが彼を支えるので扉を開けて下さい。
201号室です。」


「あ、はい。」

私は、佐藤君のポケットから鍵を拝借して、扉を開けて矢野さんを待つ。
…矢野さんって力持ちなんだよね…。

(それにしても……、
散らかり過ぎ……。)

台所は洗ってない食器が山になってるし部屋の方も汚くはないけど物が散らばっている。
そういえば神田の部屋もCDが散乱してたな。

無意識なのか手が勝手に食器を洗い始めた。

和君のとこは片付いてるんだよなぁ…。
確か、片付けはしなきゃいけないが掃除はたまにしかしたくないとか言ってた。(苦笑)

んで、アキがなんか文句言ったりして喧嘩するんだよね。
やば、思い出し笑いってアホなんだっけ??顔がにやけてるかも…。
よし!ついでにお皿を…あれ?布巾がない。
置いてないのか…。

じゃあ、次は……

クスッ

…ん?笑われてる??

前を向くと矢野さんが声を押し殺して笑っていた。

(しまった!ここ佐藤君の…。)

「あの、そんな笑わなくても…」

いいじゃないですか。

「いえ、すみません。
夢中になってされてて
つい……。」

「だって、気になったから。」

「綾乃さんをお嫁さんに貰う方は幸せでしょうね。」

カチャ……ン…

聞いた瞬間、私の中のスイッチが入った。
何気ない一言で多分誉め言葉だったんだろうけど私にとってタブーの言葉だったから。


「綾乃さん?どうかされたんですか??」

「いえ、ただ少し酔いがまわってきたみたいなんです。」

「大丈夫ですか??
ではすぐ送りますね」

「すみません。
少し寄りたい場所が出来たのでバスで帰ります。
ついでに酔いも醒まして行くので、送って下さってありがとうございます。それじゃ……」

「綾乃さん!
待って下さい!!」

私は急いで階段を下りてバス停とは違う道を歩き出した。