琉菜のアパートを出ると、ポケットに入っている携帯を手に取った

「なんだよ!」

携帯に向かって怒鳴った
何度も何度もポケットの中で携帯が震えていた


「今日はずいぶんと、遅いじゃないの」

姉貴の不機嫌な声が聞こえてきた

「また一晩レンタル?」

「ううん、今夜はとくに入ってないわ」

なら電話してくんなよ

ちゃんと帰るんだから

「姉貴、化粧の試供品
出しておいてよ
明日、持っていくから」

「ずいぶんとご執心ね~
もしかして好みのタイプに変身しちゃった?」

「そうやって探り入れんなよ
俺がそういうの嫌いなの知ってるだろ」

「まあね
でも、あんたが誰かと恋をされると困るのよ
他の奴の代理は恋汰ができるけど、恋汰の代わりはいないのよ」

俺の代わりね
確かに『恋愛体質改善プログラム』をやっているのは俺と姉貴だけだ

俺に抜けられると困るはわかる

でも人の気持ちってそんな簡単には操作できねえんだよな

俺は左の薬指についているリングを親指でそっと触った

「玲に伝授すれば?」

「あの子はレンタルだけで精一杯よ…ってちょっと!
何、辞めることを考えてるのよ」

「新しいヤツ、雇えよ」

「恋汰……恋をしたら許さないわよ」

「さあ、それはどうかな
とりあえず化粧品、頼むよ」

俺は携帯を切った


手のひらを顔の前で広げると、ゴールドのリングを眺めた

誰かとおそろいのリングなんて初めての経験だよ