「いやぁ、おはよう。」

そう言って、ドアを開けて顔を出したのは、部長だった。


「おはようございます。」

コーヒーを机に置いて、頭を下げた。


「急な話の展開ではあるんだが……ちょっと、今時間大丈夫かね?」

部長は左手にはめた腕時計に視線を落とした。


「はい、大丈夫ですよ。」
改まった雰囲気に違和感を感じつつ、部長の発する次の言葉を早く聞きたい気持ちを軽く抑え、言った。


「前々から君には可能性として話していた話なんだが――

来年度から、違う病院に移ってもらう方向で本格的に話が進んでいるんだよ。恐らく大きな変更は今後ないだろう。君の新たな配属先は、
若葉総合記念病院だ。
位置的にはここからさほど遠くはない職場だが、どうやら慢性的な人手不足に悩んでいるらしい。きっと君の技術を生かせる職場だと思うよ。」

部長は、ゆっくり頷きながら言った。

「わかりました、どこへ行っても精一杯頑張らせていただきます。
長年部長のもとでお世話になった私にとっては名残惜しいですが……」

「勿論、私も名残惜しい。君は本当に優秀なドクターだったからね。私もこれからも出来ることならずっと一緒に仕事したいが、君の技術を手元に置いておくだけじゃやはり勿体無い。存分にその才能を発揮して沢山の人を救って欲しいのだよ。私としても苦渋の決断だったよ。」

と、柔らかい微笑をまといながら言った。