――荻田部長の外来の診察室の前。


「失礼します。」



ドアを開くと、部長がいた。







「担当していた柊しおりさん、先ほど無事退院されました。
来週から外来になります、よろしくお願いします。」



「そうか!良かったな。お疲れ様。
これから経過良好になればいいんだがね。」


そういって部長はニッコリ笑った。


いつでも穏やかな人だ。
つくづく思った。





「では…失礼します。」


そういって俺はすぐに部屋を後にした。











ブラブラと半分放心状態で廊下を歩く。





すると、気付かない間に…



彼女の病室まできていた。







足が、体が…
彼女を覚えているんだ。

勝手に俺をここへ導く。







しかし。

現実を目の当たりにした。



つい何時間か前まで彼女のいたそのベッドには新しい患者が横たわっていた。



俺は、ずしん、と実感させられた。



もう、彼女はいない。


もう、会うこともできないのだ、と。







この部屋にも、病棟に来ることもないのだ。



俺は足早にその場を去った。