「サツに通報ですかい?お嬢ちゃん」


「へっ?」


上から馬鹿にされたような声が降ってきた。


あたしはそーっと後ろを振り向き、顔を上げる。


「わっ!」

そこにはサングラスをかけた、いかにも悪って感じの兄ちゃんが立っていた。


30前半の男だろうか。


煙草の香りがほんのり漂っている。


あたしは煙草の匂いが嫌い。


きっと周りに喫煙者がいないから、匂いに慣れていないのであろう。


「嬢ちゃんは、弥生捺来の女かい?」


「ち…ッ、ちちち違います」


サングラス男は鼻でかすかに笑うと、煙草に火をつけた。


「東高の生徒さんがこんなとこに来ちゃだめでしょ?退学だよー?」


…喋り方がムカつく。


あたしは煙草を吸うサングラス男を睨んだ。


「ああ、成程。青山の女だな」


あたしは首を横に激しく振った。



「じゃあ、何だ?大人を馬鹿にしちゃあ困るんだよなあ」


サングラス男は、煙草の吸殻をそのまま地面に落とし、黒い革靴でグシャッと踏み潰す。


チラッと横を見ると、無惨にも健の顔には傷が刻まれている。


…ああ。


あたしはどうすればいいの。