桜庭海斗を嫌いって言う人間、あたしは見た事なんかない。


だって、彼を嫌う人なんて普通いないでしょ。


アイドル特有のあのナルシストらしさが、彼にはないんだもの。


絶対人が良いのよ!


ピッ


「えっ」


さっきまで海斗が、テレビで熱湯風呂に何秒入ることができるのかカウントダウンしてたのに…。


人が変わっており、何だかニュースっぽいチャンネルに変えられていた。


……こんな事するの、アイツしかいない。


「蓮兄!!」


あたしはソファで寝転ぶのをやめて、起きるのを拒否している身体を無理矢理起こす。


「何」


蓮兄は、不機嫌な顔をあたしに向けた。


あたしの12歳離れた兄の如月蓮は、弁護士をしている。


頭が良いだけでなく、容姿端麗、文武両道の兄も海斗同様、老若男女と人気がある。


信頼も多く、兄に弁護を依頼してくる人なんて数え切れないくらいいる。


そしてあたしが工藤央(なかば)。


兄とは苗字は違う。

兄も本来ならば"工藤"を名乗る筈だが…、よく分からない。

大人の事情といつも上手く交わされている。


「蓮兄…、あたし海斗見てたんだけど」


「知るか、んなもん」


あたしは蓮兄がみんなに人気がある理由が分からない。


性格、かなり悪いじゃん。


現に今、あたしが見てたテレビのチャンネルを変えたんだから!