「お前…」


「……ッ」


陸は何も言わない。


後姿だから、顔さえも見えない。


見えるのは、なっちゃんの呆れ顔。


なっちゃんが陸の左手を強引に掴んだ。


「……いっ」


陸が短い声を漏らした。


なっちゃんはしゃがみこみ、陸の手を凝視する。


「……なるほどな。この手じゃあ、ロクに投球できねぇ」


…どういうこと?


「何で、監督にも言わねぇんだよ!?お前、バカか!」


「………ッ」


普段、感情を出さないなっちゃんが、感情剥き出し状態で叫んだ。



「骨、折れてるぞ、お前」



なっちゃんがそう言った。


……嘘。



「いつ怪我したんだよ…」


「8回表…、ヒットしたとき、指にあたった…」



「何で言わない…?」


「こんなので、交代したくなかったんです…!軽症だし…」


「お前、バカかよ!?」