* *


「なっちゃん……、助けて!」


今、あたしは演技中。


なっちゃんが甲子園に行く気なんて、ゼロ…いやマイナスだから、嘘をつく。



「あ?意味わかんねぇ。」


時刻は10時。


内野席ってとこは、早く取らないと満席になるらしい。


「ヒック……」


わざと、嗚咽を漏らしたりしてみる。



「……お前、泣いてんの?」


「今、あたし誘拐されてんの。…柏木の手下って名乗る奴等に」


嘘だよーん。


だけど、柏木の名前が出ると顔が変わると、蓮兄から教わったので、柏木の名前を利用してみる。



「……は?」


「なっちゃんの事好きなら、俺等に捕まれって…」


「お前、バカかよ!っざけんな!」


なっちゃんの声が大きくなった。


…どうやら、あたしの演技は迫真の演技のようだ。


あはっ。

女優にでもなれちゃうんじゃないの。



「ここは、好きじゃないって逃げるべきだろーが!」


「だって、好きって気持ちに嘘はつきたくなかったんだもん!」


演技に情をいれてみる。


「場所は?」