* *


「さすがに、今はいないかなぁ…」


現在、21時。


学校のグラウンドを見渡す限り、誰の姿も見当たらない。



本当は、明日陸に謝ってもいいはずだけど、そうだと心が晴れない。



「な、央……ッ」


お馴染みの声が後ろから、聞こえ、あたしは勢いよく振り返った。



「り、く…」


「お前、こんな時間に一人で出歩くなよ…」


あたしの腕に触れようとした手を、陸は引っ込めた。



「あたし、どうしても陸に謝りたくて…」


「それは、俺もだよ。本当にごめん」


陸があたしに向かって腰を曲げる。



「あたしも、野球やめろなんて言ってごめんなさい」


陸の姿に涙が浮かぶ。


どうして、あたしは純粋な陸を傷付けてしまったのだろう。



「俺な、さっきさ…弥生さんと会ったんだ」


「え、本当?あたしもだよ」


陸は、まじで?と、目を大きくさせた。


「弥生さんに、大事な後輩って言われてさ…。今日、央に愚痴った言葉が本当恥ずかしくなったよ」


顔を両手で隠し、俯いた陸に胸が高鳴る。


「俺、確かに野球は好きだよ。大好き。…だけどさ」


陸が一息ついた。