* *


「おい、聞いたか?弥生が、2年で唯一のレギュラー入りしたらしいで」


「マジかよ…」


彼らは、奥でユニフォームに着替える弥生捺来を睨んだ。


そして、ゆっくり一歩ずつ捺来のもとへと近付く。


「おい、弥生」

「はい」


捺来は、ロッカーを閉めて一人の少年に目を向けた。

捺来が目を向けた少年は、青沢健介。


健介は、同い年である捺来を良く思っていなかった。


今まで、自分が学年で一番強かったのに、捺来が彼を追い越し、先輩からも可愛がられていたからだ。


そう。

単なるジェラシー。


「お前、いつから野球してんだ?」

「とりあえず、キャッチボール程度なら3歳くらいから…」


捺来は、クラスでもあまり目立たない存在だった。


内気の性格は、野球部員とは思えないほどの大人しさだった。



「ふーん」


「それが、何か」


捺来は首を傾げる。


健介は捺来を睨むと、バカにしたように笑う。


「お前、俺の座を狙ってんじゃねぇよ」


「は?」


捺来は健介が何を言ってるのか、分からずふたたび首を傾げる。


「俺の全てを奪っていくんじゃねぇよ!」


14歳、夏。