侍女や執事が行き交う慌ただしい昼間を打ち消すかのように、




真夜中の広い屋敷は死んだように静まり返っている。




ここがわたしの総てだった。




広くて狭いわたしの世界。




「お嬢様」



みんながそう呼ぶように、昼間のアナタもわたしをそう呼んで、




メガネの奥にある瞳を柔らかく細める。



家を空けることの多い父や兄からの信頼の篤い彼は執事としては優秀なんだろう。



しかし、



一度(ヒトタビ)闇が落ちれば、




「貴女は……可哀想な女だ……」



だだっ広いベッドの真ん中で、




嘲笑うかのようにわたしを見下ろすアナタは昼間とは別人。





外を知らない無駄に白いわたしの肌に長い指を這わせ、



「安全と思って屋敷に閉じ込められて……」




首筋に当てられた唇からはわたしを蔑む言葉ばかりが溢れる。





「信頼していた従者の慰み者にされてるんだ……笑えるだろ?」



ククッと小さく喉を鳴らして笑った顔は綺麗なはずのに……、



アナタに初めて抱かれたあの日から、




わたしはアナタを一度だってそんな風に思ったことは無かった。