「なんで泣くの」
「ぇっ……」
頬に触れた指先の温もりと、皮膚と皮膚の間を伝ってく涙の感触。
唇を重ねる一秒前。
閉じた瞳からは、振り向かないと決めた線の向こう側への未練で涙が零れ落ちていた。
「……泣かないでよ」
「…………」
「おまえと居ると楽しいよ、俺。ずっと笑える。だから」
「…………」
「泣かないでよ……。俺、笑えないじゃん」
滲んだ視界には、初めて見る泣き顔だけが映ってる。
バカ。
おまえが泣いてんじゃないよ。
でも、コイツの泣き顔を見たら……ずっと苦しかったのが跡形もなく消えてった。
ようやく理解した。
おまえと俺はうつし鏡。
おまえが楽しいと俺も楽しい。
俺が苦しいとおまえも苦しい。
なら、
唇を重ねたい気持ちも……きっとおんなじ。
もう、線の向こう側に戻れない。
ならば、また作っていけば良い。
おまえが楽しいと言って笑う日々を。
あと一センチを埋めたら、また……。
-fin-

