***

 帰り際、ある屋敷が男の目に留まった。見事な枝振りの桜木が、屋敷を取り巻く壁の向こうにある。
 ――家のものと同じか?
 桜など決して珍しくはないが、心のどこかに引っかかる。人を遣って調べさせると、自分はそっと、囲いの中を覗き見た。

 ――なんと。
 そこには、みずみずしい美しさを湛えた女性がいた。昼下がりの日が黒髪を照らし、柔らかい色合いの襲の合間からは透き通るように白い手が見える。
 風が、桜の花片を運ぶ。女の頬に届き、女は側女と顔を見合わせて笑った。

 このような田舎にいるのが全く不釣り合いの佳人に見惚れていると、従者が戻って来た。話を聞いて、男は目を丸くした。

 ここは、お父上がさる女のためにお建てになった屋敷。あの若い女人はその娘、あなた様のお腹違いの妹君にございます。