左下から聞こえた声。

反射的に顔をそちらに向けると、露出多めの茶髪の女が俺を見上げてて。

何やねんな、今それどころやないと、当然シカトを決め込む俺。

それなのに、


「ちょっと!ねぇってば」

「あ゛何?
誰やお前」

「は?“誰”ってマジで言ってる?」


くるんと丸まった睫毛の下。
色素の薄い大きな瞳が俺を睨みつける。

こんな派手な女に絡まれる覚えなんかない。


面倒な事に巻き込まれるのはごめんやと、この謎な女に背を向けた時――

さっき向けられたそいつからの視線が、過去の自分の記憶と重なった。


え、嘘や。
まさかコイツ……。


「有坂君。
いくらなんでもその態度、あんまりじゃないのかな?」

「え、お前……まさか」

「あれ、まだ気付いてないの?
もしかして逆ナンされてるとか思ってた?
ぷぷっ残念だったね」


人をからかって上げる笑い声。
確かに昨日聞いたのと同じそれ。

間違いない。
この女、柳田や。


「酷いよね〜。
さっきからあっちにいたのに全然気付かないんだもん。
始めは面白がって知らん顔してたけどいい加減飽きてきたし」

「――お前、
もしかして30分もこんな事?」

「いや、確かに少し遅刻したけど15分ぐらい前かな。
ごめんね、遅れて」


素直に詫びを入れてくる派手女……もとい柳田。

マジか。
マジなのか。


ぶっちゃけ文句も言いたい事も山ほどあったけど、一番聞きたいのはこれ。


「お前その顔、めっちゃ別人なんやけど。
ほんま詐欺やな女の化粧って」

「ああ、私ってパリコレモデルもびっくりってぐらい化粧栄えする顔なんだよね。
もはや絵画だよね〜これ、驚いた?」


俺を驚愕させる気満タンだったようで、期限よさげに声を弾ませる。


超不本意やけど。
めちゃめちゃ悔しいけど。
絶対本人には言わんけど。

普通に可愛いし。
ぶっちゃけ俺好み。

その辺の男の気をたやすく惹くだろう、その顔面キャンバス。
ああ、恐るべし。