通りでおかしいと思った。


待ち合わせするんやから、もしもの時の為に聞いた柳田の携帯番号。

なのにあいつの返事。
『あ、ごめん。
私ケータイもってないんだよね。
嫌いなんだ、何処にいても呼び出されるあの束縛感』


ってそれ。
女子高生のセリフとは到底思えん。

あのどっか浮世離れしたアキでさえ、その辺に放置して、しょっちゅう電池切れになってるけど、一応携帯持ってるんに。


ああ、そうか。
ならこれも嘘だったんか。

全て俺を騙す為のトリックか。


もちろんあいつの自宅の番号なんか知らん。
自宅の場所もまたしかり。

だからこの非常事態で出来る事っつったら、ただ待つだけ。

俺の気がすむまで。
ぼーっとこの場につっ立って。
心のどこかであいつを信じたいと思う、微かな望みを抱えたまま――。

5分でも待たされたら鉄拳をお見舞いする、そんな普段の俺からは考えられんこの思考。


土曜の夕方。
混雑した駅構内。

とりかえずあと30分は待ってみようと、うんざりな覚悟を決めた時――


「――ねえ、」