どこかの劇団員っぽく、ギリギリと奥歯を噛み俺を睨みつける。
わざとらしい位のその表情。

どこまで本気でどこまでが演技か、まったくもって判別不能。


「っていうか、なんで俺に協力するん?
普通なら怒ってぶん殴って終わりやろ」

「だってあの超可愛い子があんたの毒牙にはまったままなんて、人道的に許せないから。
その羨ましいポジション変われっての!!
それに私子供のころ、ヒーロー系の漫画に超はまってたんだよね〜」

「あ、そう」


聞いて損した。

下らん嫉妬と下らん使命の為?
俺に負けないぐらい、やっぱこいつもいい性格してるわ。

しれっと眼下を眺めてると、かすかに顔を持ち上げた柳田と視線が合わさった。


正直綺麗やと思う。
色素の薄い、二つのそれ。


「……それにあんたマジで“東京”行くんでしょ?
卒業後にバンド仲間達と」

「ああ」

「だよね、じゃないともったいないよね。
あんたのバンドの音、去年の文化祭で聴いたことあるよ。
音楽とかあんまりわかんない私でも、他とどこか違うって思わされた。
――甘い世界じゃないってわかってるけど、きっと大丈夫だよ、あんた達なら」

「…………」

「だからね、今別れとく方が彼女の傷は浅いかなぁって私も思ったんだ。
夢をつかむっていうのは生半可なことじゃないからさ、きっとあんた向こうに行ったらそっちの世界に夢中になるよ。
こっちに置いてきたものとか、約束とか、そんなの綺麗さっぱり忘れちゃうくらい」


視線はちゃんとぶつかってるのに、ピントがどこか合ってない。

本当に見てるのは、俺の背景の夕焼けかはたまた違う何かか。
そんな妙な違和感を感じて。


「――オイ、柳田?」


強い口調で呼びかけた名前。

するとハッとしたようにその瞳がまた俺を見た後、彼女の口元がユルユルと綻んだ。