すぐにガタンって耳に届いたのは、勢いよく立ち上がったせいで倒れた木製の椅子の音。


柳田はそれを直すより先に、高い位置から冷めた目つきで見下ろしてきた。

正直この反応は予想外や。


「ねぇ、有坂君。
昨日あんなに拒否ってたのにどういう心境の変化?
まさかそこまでしてでも私と付き合いたいって訳じゃないよね?
好きでもない女と付き合うとか、あんたのポリシーに反するんじゃないの?」

「それめっちゃ誤解やろ。
お前が思ってるより、俺お前の事かなり好きやで。
たかが裸んなるぐらい別にどって事ないし」

「へーぇ。
だったらさっさと脱いでよ、早く」


微かに開いた窓の隙間から流れ込む風に、柔らかそうな茶色い髪を揺らし更に顔をしかめて腕を組む。

少しも変わらないその顔色に、やっぱりこの女相当な強者やったなと、口元を引き締めつつ立ち上がった。


「いや、俺自分では脱がんからお前が脱がせろ」

「は?お前がって……
何でそんな――」

「――それに俺一人だけ脱ぐのも馬鹿らしいし、虚しいからお前も一緒に脱げや」

「なっ!!??」


流石にここまでの提案は、コイツのキャパを遥かに越えてたらしく、動揺で上擦った声を返して来た。


「何それ!?
二人とも脱ぐってそれ絵的に可笑しくない?」

「別に普通やろ」

「いやいや、意味わかんないって。
あんたは別にいいだろうけど、裸でデッサンって私それこそ変態女一直線じゃん」

「そこを1番問題にするって、やっぱりお前変わってるわ。
でも別にええやん、見てるの俺だけやし。
お前が変やって事なら、すでに十分すぎるぐらい知ってるし、今更やろ」