これまでだっていくつかバンドはやってた。
でもあいつは、それまでの色々を瞬時に抹殺する存在やった。


「絶対帰ってくる」って誓った前のバンドの奴らとの約束も、当然どうでもようなった。
(ゲンキンやねん、俺)

ついでに遠距離になった地元の彼女の存在も、同じくらいどうでもようなった。


メール一通で全てにサヨナラした俺は、きっとあいつらの殺したい人間ナンバーワンになったことやろう。


でも知ったことか。
仕方ないねん。
俺は音楽が全て何やから。


――それにこれは後で知った嬉しい事実。

例のイケスカナイ野郎の飛び抜けた才能は、ベースを弾く事だけやなかった。

むしろそれ以上やったのは『ソングライティング』能力。
――つまりは曲作りの才能。


たかが高校生が作ったとは決して思えへん極上の曲が、あのふざけた男の脳みそから生み出されてたんや。


授業中なのにやたら熱くなる俺の身体。
全てはコレのせいや。


さっきあいつから渡された紙に書かれてたのは、説明するまでもなくあいつの新作で。

ぶっ飛んでるくらいイカシテテ、イカレテル
――最高の楽曲。


アイツマジで最悪や。
どんだけ詐欺やねん。


この授業が終わったら行かなあかん、例の合コンとやら。
ほんまは面倒でしゃあないけど、あいつに借り作るの嫌やねん。


それにこんなん手に入るなら、俺何でもしたるわ。
あの男が生み出すこの音の世界にいる為なら、きっとどんな事でも――。


我ながらキモいな。
とか苦笑いしつつ、俺はまた手元のスコアに視線を落とした。