いつの間に始まった次の授業、おっさん数学教師の淡々とした声が静かな教室に響き渡る。

でもそんな無駄な講義、もちろん俺の耳にはまるで入る余地もなくただ目の前の紙を睨み付けた。


……ほんまにあのボケ。
だから面倒やねん。

こんなもん、普通に持ってくんなや。
こんな凄い……
人の心臓メタメタにするような。


――来る前はあんなに拒否したこの発展途上国。
だけど俺は逃げんとまだここにいる。

理由は簡単や。
ここは『非』発展途上国やったって、ただそれだけの事。


この高校に入学したての頃にあった“部活動説明会”。
そこで見させられた、軽音部の熱すぎるヘビメタバンドのパフォーマンス。

それに惹かれて顔出した軽音部の部室で、俺は出会ってしまったんや。
やたらとイケスカナイ、さっきのクソ男に。


見た目はチャラくて、やたらと女にモテそうな雰囲気で。
性格だって見たままで、絶対俺の好かんタイプの人間やった。

なのにその音を聴いた瞬間ぶっ飛ばされた。
何やねんこいつ、と。


ファンクの効いた超個性的なベース。
技術もさることながら突起した音楽センス。

同世代で俺の心をここまで揺らした人間は、この男が始めてやった。

一瞬で魅了されて、コイツと組みたいって思いが頭の中を支配していった。
……この俺がやで?


その後はいきなりの衝撃に心を惑わせながらもドラムを叩く俺。
すると側に近づいて来たその男は、ニヤリと笑って言てのけた。


「お前スッゲーうまいのな。
ヤベエ心臓ドクドクいってんだけど。
なぁ、俺のバンド入んねえ?
俺お前の音が絶対にほしい」


――“俺”のバンド?
何でやねん。

俺は“俺”のバンドにお前を入れたかったのに。


ギラギラ光るそいつの瞳を見ながら、こんな文句を返すつもりが

“コイツと出来る”

って餌に釣られて、いつの間にか肯定の返事をしてる自分の口。


……全くこんなはずやなかったのに。
でも自分の我を捨ててでも共に奏でたい奴やった。


そうして俺は音を出す場所を“此処”で見つけたんや。

俺らしくない言葉を使うなら、正に『運命』とも言える出会いを――。