「違うんっす!先輩!!
アイツがあんな事言ったの、ぜんっぜん本心じゃないんです!!」

「は?」


“あんな事”ってどの部分やねん。

と不快に声を返した俺に対して、タケはやけに必死になって縋りつくようにまくし立てた。


「だから“バンド抜けて予備校行きたい”って言ったの。
あれ本当は予備校じゃなくて、東京の大学通うためにバイト増やして金貯める為で……。

ほらあいつの家オヤジいないから、母子家庭で費用とかぶっちゃけキツいから。

ってもミヤああ見えて成績いいし“大学は奨学金貰えるとこ狙う”とか言ってたけど。
でも生活費とか家賃とか、親に負担かけたくないから今から必死で金ためなきゃって。

アイツ本当はバンドやめたくないけど、やっぱり東京どうしても行きたいからってマジでスゲー悩んで泣く泣くそう決めたんっす!

んでとりあえず今は様子みようって。
でもいつか落ち着いたらまたバンドでドラムやりたいって。
だからアイツ……」


しどろもどろで要領を得ない説明だったけど、言いたいことはよくわかった。


引っ掛かるとこは山ほどある。

だけどその中で一番気になったのは――


「――今何……て?
ミヤ、オヤジいないってマジなん?」


付き合ってこのかた、そんなん一度だって聞いた事なかった。

声色を固くして詰め寄ると、タケは気まずそうな表情をしながらもゆっくりと首を縦に振った。


「そうっす。
アイツの父親、中2の頃に事故で死んでそれからは母親と弟と、三人っきりで……」

「なら何でアイツほんまの事言わへんねん。
わざわざそんな嘘までついて」

「それ、は……昔付き合ってた奴にそれが原因でフラれた事あって。
ほら、母親仕事してっから家の事とか弟の面倒とかであんま遊ぶ時間とれなくて、唯一の自由時間はドラムやる事に当ててたから。
で、それ以来何かトラウマみたいになって、家の状況隠すようになって……」


何やねんそれ。

俺そんな心の狭い奴と同じレベルやと思われてたん?

んな自分本位の糞みたいなガキと……。


……って何が違うん?

現にミヤの想いの強さにびびって、あいつを切り離そうとしてるこの俺と……。