この明らかに“パンク少年”って風貌のコイツは一つ下の軽音部の後輩。

普段は特にリョウを慕って奴の周りをうろちょろしてるから、こうやって俺の所に会いに来るのははぼ初めてに近いかもしれん。

でも来た理由はすでに予想がついてる。


……実はコイツ、ミヤと幼なじみ。

家は隣。
ガキの頃から何をするにも一緒。

最近は同じバンドやってるぐらいの付き合いの濃さで。


お互い何も言葉もなく向き合う事数秒。

やけに硬い表情で俺を見上げてくる20センチ程背の低い、タケのつっ立った赤い髪を眺めながら俺はまた口を開いた。


「なぁタケ。
お前一体どれぐらいここでこうしてたん?
用あるなら携帯入れればよかったんに」

「いや、ここ来たら鞄まだあったから……」

「ふーん、それは悪かったなぁ。
今までずっと美術室におってさぁ」

「…………」


一瞬歪んだタケの顔を見てすぐにわかった。

やっぱりコイツはもう全部知ってる。
昨日ミヤと話した事も、下らん賭の事も、全部。


やけど俺はまだすっとぼけたまま。
目の前で怒りを耐える男を平然とした顔で覗き込んだ。


「なぁ、何も言わんのなら俺行くで。
俺これからバイト行かなあかんねんから」

「……ケン…ゴ先輩ッ!」


奥歯を噛み締めるようにしながら発っせられた言葉。

それからタケは何かを押し込むように息を吐いて、俺の顔を真っ直ぐに見た。

濁りも何もない、綺麗すぎる二つの双眸で。