――音楽と美術。
これらは多分、一般的には同じゾーンに属する物やろう。

センスと才能と努力。
どちらを極めるにしても、常にこの三種の特性が必要になってくる。

やからその辺の筋肉野郎よりはよっぽど、俺らに近い存在なのかもしれん。

世間の印象として言うなれば感覚とか感性とか、そんな曖昧なもんが。


やけど中学の授業以来、その手の授業を選択せんかった俺にとって、美術室は限りなくアウェイ。

そこに属する人物もまた同じ。

異世界。
異人類。
未知の領域。

よってやる気もテンションもあがらへん俺に罪はない。


本来なら軽音部の部室に向かうはずの放課後。

俺はこの学校に通うようになって三年目にして、初訪問ともいえる空間への扉を開けた。


――めちゃ薄暗い室内。
静寂の中にいたのはたったの三人。

でも目当ての人物はすぐにわかった。


いきなり扉を開けた俺の方にちらりと視線をやった男二人。
だけどすぐに興味なさげにまた作業に没頭して。

一方俺に少しも気付いてないのか、教室の奥まった場所で一心不乱にキャンバスに向かう一人の女。

肩より長い色素の薄そうな髪のそいつは、確かに昨日渡り廊下で見かけた人物そのものやった。


細身の後ろ姿を眺めること約三秒。

ふうっと呼吸をして適当に心構えをしてから、その背中に近づいた。


「なぁ、お前柳田やんな?」

「…………」